アンダーグラウンド・レジスタンスとは
Underground Resistance(UR)は、1989年にデトロイトで結成された音楽集団で、特にデトロイトテクノのシーンで強い影響力を持っています。
彼らの音楽は、激しいビートと生々しい音質を特徴とし、社会、政治、経済的なメッセージを込めたものが多いです。反体制的な姿勢も強く、大企業や商業主義に対する抵抗の象徴として活動しています。
音楽と思想
URは、デトロイトテクノのルーツである都市衰退やレーガン政権時代の社会状況を背景に、社会変革を促す音楽を制作してきました。
彼らの音楽は、アフリカ系アメリカ人のアイデンティティを高めることを意識しており、デトロイトの低所得層をターゲットに、彼らの地位向上を目指しています。
また、URはメジャーレーベルに頼らず、完全に独立した音楽制作体制を構築。メンバーはバンダナやバラクラバを着用し、匿名性を保つことで、個人のスター性ではなく音楽そのものに焦点を当てています。
結成と活動
URは、マイク・バンクスとジェフ・ミルズによって1989年に結成され、デトロイトテクノの初期サウンドを確立しました。
数々のEPやアルバムをリリースし、メンバーのジェフ・ミルズやロバート・フードの脱退後も、マイク・バンクスを中心に活動は継続されています。
特に話題になったのは、ソニー・BMGとの対立です。「The Knights of The Jaguar」の無許可カバーをめぐり、音楽業界に対する批判を強め、彼らの反体制的な立場を鮮明にしました。さらに、2023年にはデトロイトで若者向けの音楽アカデミー「Underground Music Academy」を設立し、次世代の音楽人材の育成にも力を入れています。
特徴と影響
URの音楽は、単なるエンターテイメントではなく、リスナーに社会問題を考えさせるきっかけを与えるものでした。彼らの自主独立の精神や、アンダーグラウンドカルチャーを象徴する存在感は、多くの後進アーティストにも大きな影響を与えています。
Galaxy 2 Galaxyとハイテック・ジャズ
URの派生プロジェクトとして特に注目されたのが、Galaxy 2 Galaxyです。このプロジェクトは、ライブでの電子音楽とジャズの融合を目指しており、1993年のEP『Galaxy 2 Galaxy』からその名前が付けられました。
その後、「Hi-Tech Jazz」で有名になった彼らのスタイルは、日本でも大きな人気を集め、特にデトロイトテクノの代表作として高い評価を得ています。
URのサウンドは今ではよりダークなテクノの象徴となっていますが、この頃のサウンドにはR&B的な肌触りも感じられます。
ジャズファンにも彼らの「Hi-Tech Jazz」に魅了されている人も少なくなく、規則正しく繰り返されるビートが次第に高揚感を増してい木、少しずつ興奮を誘ってゆく感じは、ゴスペルにも通じるものがあるという指摘もあります。
つまり、エレクトロミュージックでありながらも、ルーツにある音楽はジャズと共通するものがあるということですね。
また、ファンからは「音質的には欠点があっても、それを補って余りあるほどの感動がある」といった熱烈な声も聞かれ、URはただの音楽集団を超えて、一種の社会運動としての役割を果たしているともいえるでしょう。
URとGalaxy 2 Galaxyは、音楽を通じて社会に問いを投げかけ、その独自のメッセージは、今もなお多くのリスナーにインスピレーションを与え続けています。
デトロイト 貧困の原因
URにしろ、ジャズにしろ、新しい音楽、社会に刺激を与えるミュージシャンやグループはデトロイト発であることが少なくありません。
先述した通り、デトロイトには低所得者層が多く、それゆえに社会への不満や変革への渇望といったものが、新しい音楽を生み出す素地となっているのかもしれません。
デトロイトはかつて、アメリカを代表する自動車産業の中心地でした。しかし、海外メーカーとの競争激化、アメリカ国内での需要の変化などにより、自動車産業が衰退。これに伴い、多くの雇用が失われ、経済が打撃を受けました。
デトロイトは、アメリカにおける人種問題の歴史が深く刻まれた都市の一つです。歴史的な差別や隔離政策の影響により、黒人コミュニティが貧困に陥りやすく、経済格差が拡大しました。
自動車産業の衰退や経済の格差拡大、それに伴う都市部の治安悪化などが原因となり、白人が郊外や他の都市へと移住する「ホワイトフライト」と呼ばれる現象が起きました。
これにより、都市部の税収が減少し、公共サービスの低下やインフラの老朽化を招き、さらに経済状況を悪化させました。
ここから生み出された負の問題点は、教育格差、犯罪率の高さ、住宅問題、ドラッグ問題が挙げられます。
まず教育の格差ですが、特に低所得地域では、教育の質が低下し、貧困の連鎖を生み出されている傾向が認められています。
次に犯罪率ですが、貧困や失業が犯罪率の上昇につながり、治安の悪化がさらに経済活動の低下を招くという悪循環に陥っています。
また住宅問題ですが、老朽化した住宅や、高品質な住宅の供給不足なども貧困の要因の一つとなっています。
さらに貧困地域では、ドラッグ問題が深刻化する傾向があり、それが家族やコミュニティの崩壊につながっています。
それに加えて異常気象。
近年、デトロイトは極端な気象現象に見舞われることが増え、インフラへのダメージや経済活動への影響が懸念されています。
これらの要因が複合的に作用し、デトロイトの低所得者層問題は長期化しています。
今後のデトロイト
近年、デトロイトでは、都市再生に向けた様々な取り組みが行われています。
自動車産業に代わる新たな産業として、テクノロジー産業の誘致が進められています。
また市は、若者向けの起業支援プログラムなどを実施し、新たな雇用創出を目指しています。
さらにデトロイトの歴史や文化を活かした観光業を振興し、経済活性化を図っています。
コミュニティの再生への取り組みもあり、貧困地域におけるコミュニティセンターの設置や、教育プログラムの充実など、地域住民の生活改善に取り組んでいます。
とは言っても、これらの取り組みが実を結ぶには、時間がかかるでしょう。
デトロイトの低所得者問題の解決は、一朝一夕にはいかない複雑な課題なのです。