受験生やその保護者にとって、受験や勉強についての情報は非常に重要なものです。
そして本当に今の自分は志望校に入れるのか。
そういう漠然とした不安を多くの受験生や親御さんは抱えているのではないでしょうか。
そして、このような事柄に不安や焦りを感じたとき、多くの人が塾や予備校の説明会や進路相談に足を運びます。
ちょっと検索をかければ、無数の塾、予備校のホームページがヒットし、その多くのサイトには「今なら無料相談実施中!お気軽にお問い合わせを!」と書かれた問い合わせフォームがあります。
「無料ならいいかな」
「これで受験の不安が解消できればしめたもの」
「相談して受験の悩みをなくしたい」
そう考え、無料相談や無料受験説明会に申し込む。
まるで悩みを抱える人が占い師に相談するように。
もちろん、未来への不確実さを和らげてくれる「何か」を求めるのは自然な心理です。
しかし、そうした説明会や相談会には注意も必要です。
一見すると丁寧で親身な進路相談や、勉強法のアドバイスが行われているように見えますが、その裏に巧妙な「勧誘」が潜んでいる場合があります。
もちろん、すべての塾や予備校がそうだというわけではありません。
ただ、塾や予備校もビジネスとして運営されている以上、説明員が無償で見ず知らずの相手にアドバイスをしているわけではなく、1時間、2時間の相談には当然コストが発生しています(NPO法人や、説明する人が無性のボランティアスタッフなら別ですが)。
だからこそ、相談内容が親切であればあるほど、その先には入塾へとつながる誘導がある可能性を意識する必要があります。
よくあるのが、「明日にかける橋」型の話法です。
これはサイモン&ガーファンクルの名曲《Bridge Over Troubled Water(邦題:明日に架ける橋)》に由来する構造的な話術で、聞き手を一度“落ち込ませ”、そのうえで“救いの手”を差し伸べるというものです。
この曲の歌詞を見てみましょう。
君が生きるのに疲れて
ちっぽけな存在に思えて
涙がこぼれそうなとき
僕がそれを拭い去ってあげる
と、冒頭からリスナーを「生きるのに疲れている存在」として設定します。
もちろん、実際に疲れていない人もこれを聴けば、
「ああ、自分もそうなのかもしれない」と、
無意識のうちにその状態に同調してしまう可能性があります。
さらに、
激流にかかる橋のように
僕がこの身を捧げよう
と続きます。
ここで語り手は、自己犠牲の象徴として“橋”になり、「君」を救う存在になります。
これは非常に感動的な構図ではありますが、冷静に見れば、「リスナーを勝手に疲れさせ、勝手に落ちぶれさせてから、自分が助ける」という、構造的なマインドセット誘導でもあります。
この話法を、塾や予備校の説明会に当てはめてみましょう。
最初に「今の受験事情は非常に厳しい」と語り、不安を煽るデータやエピソードを提示します。
それらは真実であることが多く、聞き手は「自分はこのままではマズいのでは」と感じます。
これはまさに、
君が落ちぶれて
路上をさまよい
厳しい夜がやってきても
僕が慰めてあげる
というような語り口に似ています。
自分が不安で苦しい状況にあると錯覚させられたあと、
僕がこの身を捧げよう
君の支えになるよ
というように、「うちの塾なら大丈夫」「うちの指導なら救える」といった安心感を与えてくるのです。
まさに「救世主」のような立ち位置で語り手=塾・予備校が登場するわけです。
このように、「明日にかける橋」型の話法とは、一見親切で心強く見える語りかけの中に、構造的に“問題提起と解決提示”の誘導が組み込まれたものです。
それは自己啓発セミナーや宗教、さらには広告に至るまで、さまざまな場面で見られる普遍的なパターンであり、決して新しい手法ではありません。
だからこそ、説明会で語られる「厳しい現実」と「救いの手」のセットには、常に一歩引いた視点を持って接することが重要なのです。
感情を揺さぶる言葉の裏に、どのような意図が隠されているか。
それを見抜く冷静さが、情報に溺れないための第一歩です。
こうした流れを理解した上で、塾や予備校の説明会に参加すれば、「どうですか?うちの塾で頑張ってみませんか?」というセールストークに引っかかることなく、欲しい情報を手に入れることができるかもしれません。
そう、情報収集として参加するのは良いことですが、その場で感情に流されて即断即決するのではなく、必ず一度家に帰って冷静に考える時間を設けるべきです。
たとえその場では、その塾に魅力を感じたとしても、その場の勢いで契約してしまうと後悔することもあります。
入った後に「やっぱりちょっと違うな」と感じたら、クーリングオフ制度を利用するという手もありますが、手間や心理的な負担を考えると、そもそもその必要がないよう慎重に判断する方が賢明です。
人は、不安なときほど、「大丈夫ですよ!」「うちで頑張れば必ず伸びる!」などの安心を与えてくれる言葉に頼りたくなるものです。
しかし、その言葉の背景にある意図や構造を理解しておくことが、自分の進路を主体的に選ぶためには欠かせません。
説明会はあくまでも情報の一環とし、自分自身の判断と照らし合わせて、納得のいく選択をしていくようにしましょう!