医学部予備校選び。失敗する考え方

医学部予備校を探す前に

「医学部専門」を謳う予備校は日本全国、数えきれないほど存在します。

さらに、普通の塾、予備校でも医学部コースを設置しているところとあるので、それらを含めると、無数といっても良いでしょう。もう数えることも困難になってきます。

もちろん、中には「名前だけ」のところも少なくありません。
つまり「医学部合格者」を出していないところです。

名の通った有名なところ、あるいはいかにも「専門性が高そうな」イメージを打ち出している予備校でも、医学部に合格した受験生の数はゼロというところも珍しくありません。

そのような数多ある医学部受験に対応した予備校の中から、どのようにして「本当に合格する」医学部予備校を選べばよいのでしょうか?

しかし、その前に、大前提として知っておいていただきたい事柄があります。

基礎がなければ意味がない

それは、基礎学力がない状態で「医学部専門予備校」に通っても意味がないということです。

時間の無駄ですし、高額な学費をドブに捨てるようなものだからです。
医学部合格を売りにする予備校の学費は驚くほど高いところが多いですからね。

ですので、医師を志す受験生、および受験生の親御さんに向けて、転ばぬ先の杖として知っておいていただきたい事実として、なぜ「基礎学力」が無い状態で医学部専門予備校、あるいは医学部コースにはいってはいけないのか、その理由を説明していきましょう。

進学校・中高一貫校の生徒

以前、各予備校の現役で医学部に合格した受験生の調査をしたことがあります。

そこで分かったことは、これらの予備校に通い、現役で合格した受験生は、いわゆる「一流」とよばれる偏差値高めの高校に通う受験生だったということです。
なかでも中高一貫の高校が抜きんでて多かった。

その理由は、私立の中高一貫高校のカリキュラムにあります。

高偏差値の中高一貫校の多くは、かなり前倒しでカリキュラムを組んでいるところが多いです。
中には高校1年生の段階で数IIIを終えるところもあります。

つまり、高校の初期の段階で、通常の高校が3年間かけて教える履修範囲を終了させているのです。

残りの期間は何をしているのかというと、とにかく入試対策です。
実戦を想定して、実践、実践の繰り返しです。

高校1年生の英語の期末テストの問題が、共通テスト(旧センター試験)レベル、もしくはセンター試験の過去問をアレンジした問題だったという高校も珍しくありません。

それぐらい中高一貫高校や、超進学校を標榜している高校のレベルは高いのです。

予備校のお陰ではない?

このような高校に通う生徒の父兄が、「学校の勉強だけでは心配だから」という理由で、医学部専門予備校に通わせるわけです。

ただでさえ、学校ではハードな勉強を課せられ、そのうえ受験テクニックを教えてくれる予備校に通うわけですから、受験に強い体質になる生徒が増えることは頷けます。
もちろん、中にはそのあまりに厳しさにドロップアウトをする生徒もいるでしょう。しかし、真面目で努力家な生徒は、学校が課すハードな課題をこなし、基礎学力が最初からある状態で予備校に通うわけです。

ですので、既に医学部受験にエントリーできるだけの最低限の学力を持った状態の生徒が、予備校でも勉強し、医学部に現役合格しているというのが現状というわけです。
つまるところ、「中高一貫校のエリートが受かるべくして受かっている」ということですね。

ですので、この事実から言えることは、進学校に通う生徒が医学部に現役合格したことは、必ずしも予備校のお陰ではないということ、なのです。

まずはこのことを頭に入れておいて欲しいと思います。
そして、この事実を前提に考えを進めていきたいと思います。

高額学費が無駄になる

以上説明してきたことから、もうお分かりいただけると思います。

学力が中途半端な状態で、いくら「医学部受験対策」を講じたところで、学力がない生徒にとっては「馬の耳に念仏」だということです。

かけ算の九九も満足に覚えていない生徒が、方程式を教える授業に出席するようなものです。

どんなに医学部合格にとってタメになる授業でも、そもそも生徒にそのようなことを受け入れる素地がない状態では、結局「医学部専門予備校に通っているという満足感と期待感」で終わってしまっている可能性が高いということです。

高校野球常連校の野球部の練習に、野球をはじめたばかりの生徒を入れたところで、ついていけないのと同じです。

しかも、医学部予備校の月謝(授業料)は高いです。

さらに、合宿や講習会などの特別授業のオプション料金も含めると、年間数百万円かかることも珍しくありません。

しかし、このような高額な学費が活きるのは、ほとんどが、あらかじめ進学校の授業で「仕込まれた」生徒ばかりです。

基礎学力もない状態で、ハイレベルな講義をする予備校に通ったところで意味はありません。

巧妙なクラス分け

しかし、医学部予備校側もなかなか巧妙です。

学力があり、合格可能性の高い生徒だけを相手にしていると、生徒の数も少ないため、会社としての「利益」にはつながりません。

だから、「クラス分け」をするのです。

仮に、Sクラス、Aクラス、Bクラスに分けるとしましょう。
Sクラスは、医学部合格に限りなく近い生徒に向けた講義をします。
その一方で、Aクラス、Bクラスは、まだ医学部合格には難しい学力の生徒のクラスです。
AクラスやBクラスの生徒には「Sクラスにいけるように頑張ろう」と講師は激励しながら授業をします。

生徒はSクラスに上がれるよう頑張りますし、親も子どもがSクラスに上がることを期待します。

しかし、残念ながらSクラスに上がれない状態のまま受験シーズンがやってきて、不合格になったとしても、それは「予備校のせい」にはなりません。
だって「Sクラス」のレベルではないのだから。
予備校にクレームが来ないどころか、翌年度の「浪人生コース」の貴重なお客様になってくれます。

「今年は残念な結果だったけれども、あと1年うちで頑張れば、きっと合格できるよ」と営業をかければ、その生徒はもう1年、その予備校の「お客様」となってくれるわけですね。

ひどい場合は、このループを何年間も繰り返し、気づけば3浪、4浪していたというケースも珍しくありません。
そして、気づけば、ウン千万円もの学費を投下していたというケースも珍しくありません。

だからこそ、医学部予備校選びは慎重になる必要があるのですね。

少なくとも、基礎学力が身についていない状態であれば(たとえば、河合塾の全国模試などで偏差値60以下)、まずは近所の塾や個別指導を受けるなりして、今後の高度な医学部対策の指導についていけるだけの学力を身に着けるほうが先決だと思います。
そのうえ、高額な学費を払う必要もなくなると思いますしね。

ではどうするか

では、どうするのかというと、まずは高校で習う履修範囲のすべてをきちっと7~8割理解の水準にまで持って行きましょう。

学校の教科書、参考書、問題集などをしっかりと学習すれば、勉強の基礎レベルであれば、かなりのところまでいけるはずです。
また、最近だと無料で受講できる映像授業もありますので、これらの教材を駆使すれば、微々たる出費で、ある程度の学力をつけることが出来ると思います。

もちろん、中には中学生でマスターすべきレベルの単元が身についていないこともあるでしょう。その場合は、恥ずかしがらずに自分が理解できているレベルにまでさかのぼるべきです。

じつは、このことがとても大事だったりします。
高校生の多くは、自分は高校2年生だから高校2年生の学力があると思い込んでいることが多いですが、実際テストで学力を測ってみると、かなり多くの生徒が、英語にしろ数学にしろ、中学2年生の段階から、取りこぼしが多いのです。

この中学時代の学力の取りこぼしは、自習で埋めていくしかありません。
迷うことなく、中学2年生レベル、あるいは3年生レベルの問題集なり参考書なりを買って苦手な単元や忘れていたことを埋めていくべきです。

このようなことは、医学部専門予備校ではやってくれません。
だから医学部専門予備校に通う前に、まずはご自分の学力を客観的に計測してみる必要があります。
一番良いのは模擬試験です。
ベネッセ、駿台、河合塾、東進などの大手予備校(教育機関)が実施している模試を受けて、客観的な実力を判断しましょう。
もちろん、模試の業者によっても難易度が違いますし、出てくる偏差値も違います。
ただ、どの模試であれ、偏差値50を下回るような結果であれば、まだ医学部予備校の門戸を叩くのは早いと判断すべきでしょう。

このレベルになるまでは、ひたすら自力で自習をするなり、金銭的に余裕があるのであれば、個別指導や家庭教師に弱点補強の指導をお願いするべきだと思います。

自力で自習をする際におすすめの問題集や参考書は、いずれ別の記事でご紹介したいと思います。

とにかく、まずは「医学部予備校に通いさえすれば、医学部合格が近づく」と安易に考えるのは間違っているし、お金がかかりすぎるということを認識していただければ幸いです。