お金がかかり過ぎる医学部予備校

医学部コースは儲かる

予備校で医学部受験の指導をしてかれこれ20年以上が経ちました。

合格していただいた生徒は優に数百名を超えますし、思い返せば、そこには数々のドラマがありました。

まさかの大逆転合格というケースもありましたし、受かって当然と思っていた生徒がまさかの不合格で悔しい思いをしたこともあります。

これらの指導経験と知識、経験を基に、昨今の医学部合格に関して書かれたノウハウなどを読むと、眉唾なものが多いことに愕然とします。

医学部コースは儲かる

特にインターネット上にあふれる医学部合格のノウハウは、中には「本当に医学部に生徒を合格させたのだろうか?」と疑わざるをえない内容のものも少なくありません。

どう考えても、医学部に合格させるカリキュラムも、情報もノウハウも、講師の指導力も無いような塾、予備校。
それなのに、猫も杓子も「医学部コース」を設立しはじめたのが、ここ数年の間におこった顕著な出来事です。

おそらく多くの予備校に「医学部コースは儲かる」という認識が定着してしまったからだと思います。

大学の学費を狙え

それはどういうことかというと、たとえば浪人生を1年間預かるとすると、学費はおよそ平均で、100万円から200万円といったところです。

基本料金が100万円前後で(それ以上のところも多いですが)、それにオプションの授業料(夏期講習、冬期講習、合宿など)をつけると、プラス数十万円が上乗せされます。

これらのオプションコースをどれくらい選択するかで、受験生一人ひとりにかかる学費は変わってくるのですが、およそ50万円から100万円がいいところだと思われます。

そうすると、だいたい一人あたりの受験生から取れる料金は最大でも200万円前後となるわけです。

しかし、「医学部コース」という「冠」をつけるとどうでしょう?
それより多額な学費を設定しても、誰もその値段の高さに疑問を抱かなくなるのです。

それは、医学部受験を子どもにさせる家庭が医師であり、比較的金銭的に裕福だということもあるでしょう。
また、ご父兄が特に医療系に携わる職業で無い場合でも「大学の医学部はお金がかかる」ということを多くの家庭は認識しています。

ですので、我が子が医学部に合格した時のためのお金を準備しています。

たとえば、私立大学の医学部でしたら、年間500万円以上の学費がかかるところもあるため、多くの家庭は、医療従事者であろうとなかろうと、富裕層であろうとなかろうと、まとまった大金を用意していることがほとんどです。

しかし、多額の学費を用意していたにも関わらず、子どもが不合格。
そうすると、当然、予備校に通うことになります。

すると、入学後に用意していた年間の学費よりも、少しだけ安い料金設定の予備校にも、「仕方ない、それぐらいはやはりかかるのか」と納得して出してしまうのです。

ある医学部予備校情報を中心に掲載しているサイトを運営している会社の調査によると、東京都内の医学部予備校の1年間の学費の平均は、約330万~350万円とのことです。

これはあくまで平均の学費です。ということは、当然、それ以上の学費がかかる予備校もあるということです。

そして、どの予備校の資料を取り寄せても、医学部コースの学費は高額。
「仕方ないか」と諦める、納得し、親はあっさりと「医学部専門」を謳う予備校に学費をあっさりと入金してしまうわけです。

安いと逆に不安

このような「医学部コースの相場」が、世間に出回っているため、逆に良心的な学費を提示している予備校は、「あそこは安いから大した指導をしてくれない」という先入観を抱かれることにも繋がるのです。

実際、ある予備校は、毎年必ず1人か2人は医学部合格者を出していたのですが、医学部志望の受験生の扱いは「浪人生コース」とみなしていました。
ですので、年間の授業料は、他の医学部以外の学部を志望する受験生と同じく100万円ちょっとでした。

それでも、きちんとした指導をしているため、毎年コンスタントに医学部合格者を出していました。
その噂を聞いて医学部志望の受験生の親が、見学にやってきて、料金を尋ねました。当然、普通の浪人生と同じ100万円前後の料金が提示されます。
その時、見学に来た親が放った言葉が、「1教科につき100万円ですね。ちょっと高いような気がしますが、仕方ないですね」だったそうです。

つまり、国公立だったら5教科で500万、私立だったら3教科で300万くらいはかかるだろうと思い込んでいたようなのです。

これが、世間の、いや、医学部を受験するお子さんを持つ親たちの間に暗黙に流通している相場なのです。

いやいや、そんなに支払わなくても、きちんとしたノウハウの下で、しっかり抜けなく、漏れなく勉強すれば合格するのに、と思ったものです。

しかし、「学費が安すぎると合格できないのではないか」という思い込みが、どうも世間の親御さんには染みついているようなのです。

高ければいいというわけではない

もちろん、高額な学費を取るところでも、きちんと合格できる指導をするところであれば、百歩譲って良しとしましょう。

しかし、多くの高額医学部専門予備校はそうだとは限らない。
生徒を医学部に合格させるだけの指導力ある講師がいない。
医学部に合格させるための再現可能なカリキュラムがない。
それなのに「医学部コース」を設立し、高額な価格設定をしている。

これは由々しき問題です。

他の記事でも書く予定ですが、医学部専門予備校、いや、予備校にすら通わずに、現役でしっかりと合格している受験生だってたくさん存在するのです。

まずは、この事実をしっかりと認識し、では、どうすれば合格するのか、そのために今現在必要なことは一体何なのか。

このことをしっかり考えるようにしていただきたいと思います。

まずは、「医専」や「医学部専門コース」というような名前をやたらと信じないようにしましょう。疑ってかかるくらいがちょうどよいと思います。

中には、実際に医学部で出題された難易度の高い問題を中心に授業が展開されているところもあります。

しかし、考えていただきたいのは、どんなに授業の内容がハイレベルでも、まずは自分が、あるいはお子さまが、このレベルの授業についていけるのかどうかを冷静に見定める必要があります。

最初から一流を求めても意味がない

もちろん、このようなレベルの高い授業に将来的にはついていけるようになる必要があります。
しかし、現段階の学力でついていけないのであれば、まずは基礎学力をしっかりと築き上げることです。

フランス語がまったく分からない人が、どんなに一流講師のフランス語のハイレベルな授業に出たところで時間の無駄ですよね?

それと同様、塾や予備校の「医学部対象」の授業が、いくら素晴らしい内容だといっても、ついていける生徒、ついていけない生徒がいます。
ついていけない生徒が、いくらハイレベルな授業に出席したところで、学力はつきません。
「ハイレベルな授業に出ているから合格するかもしれない」という満足感は得られるかもしれませんが。

でも、満足感だけでは医学部受験には合格できません。

そのあたりの判断を冷静にしていただき、それで大丈夫だと判断できた生徒のみ、医学部専門予備校や、医専コースなどに入会すれば良いと思います。

そうでない受験生は、まずは学力の基礎をしっかり身に着けるべきでしょう。