不思議な感覚
日本独特のスパゲッティ、ナポリタンは、それほどものすごく美味しいというわけでもないのに何故か時々食べたくなります。
中には「あのまずさがうまい」というナポリタン愛好家もいます。
確か柳沢きみお先生の漫画『大市民』の主人公山形がそのようなセリフを言っていたことを思いだします。
もちろん、その気持ちわかるんですが、このニュアンス、うまく言葉にはしにくいものです。どうして、それほど美味しくないのに、お腹が空いた時など、無性に食べたくなっちゃうんでしょうかね?
「それほど美味しくないのに、なぜ食べたくなるのか?」 これは、ナポリタンに限らず、多くの食べ物が持つ不思議な魅力ですよね。
この感覚を言葉にするのは難しいですが、いくつか考えられる理由を一緒に探ってみましょう。
なぜナポリタンが愛されるのか?
ナポリタンは、日本の食文化の中で長い歴史を持ち、多くの人の幼少期や学生時代の思い出と結びついています。
喫茶店でのひとときや、家庭での日曜日のランチなど、様々なシーンで食べられた経験が、味覚だけでなく、心の奥底に記憶されているのかもしれません。
また、家庭でも簡単に作れること、そして喫茶店などでも気軽に食べられる手軽さも魅力の一つです。忙しい日常の中で、手軽に食べられるものが食べたいと思ったときに、ナポリタンが頭に浮かぶのではないでしょうか。
安心感というのもあると思います。
ナポリタンは、ある意味「定番の味」です。新しい味に挑戦するよりも、安心して食べられる馴染みの味を求める心理が働くのかもしれません。
もう少し突っ込んで考えてみると、「コミュニティ」という言葉も思い浮かびます。
ナポリタンを食べることは、友人や家族との楽しい食事のひとときを共有するきっかけにもなります。
一緒に食べることで、より一層美味しく感じられるという側面もあるでしょう。
それと、昨今の美味しい外食ばかり慣れきってしまった舌が変化を求めているのかもしれません。
日常の食事に変化を求めるため、普段食べないようなものを食べたくなることがあります。ナポリタンは、そんな気分転換にぴったりな食べ物なのかもしれません。
「あのまずさがうまい」という言葉について
「あのまずさがうまい」という言葉は、ナポリタン独特の風味を表現する上でとても面白い言葉です。
この言葉には、以下の様な意味合いが込められているのかもしれません。
それは「複雑な味わい」。
ナポリタンは、ケチャップの甘酸っぱさ、麺の食感、具材の組み合わせなど、様々な要素が複雑に絡み合った独特の味わいです。この複雑さが、人によっては「まずい」と感じる一方で、「中毒性がある」と感じるのかもしれません。
それと「懐かしさ」ですね。
先ほど述べたように、ナポリタンは多くの人の記憶と結びついています。その記憶と結びつくことで、味覚的な評価とは別に、感情的な満足感を得ているのかもしれません。
それとシンプルにお腹が空いている時は、特にシンプルな味付けで、食べやすいものが食べたくなる傾向があります。
ナポリタンは、まさにそのような条件を満たしていると言えるでしょう。また、ケチャップの酸味が食欲を刺激し、さらに食べたくなるのかもしれません。
ナポリタンの特徴
最近の若い世代は、ナポリタンと言ってもピンとこない子どもも増えてきているようです。
なので、おさらいとして、そもそもスパゲティナポリタンとはどんな料理なのか、軽く解説してみましょう。
トマトケチャップをたっぷり使うのが特徴で、具材はピーマン、玉ねぎ、ソーセージなどが一般的ですが、お店や家庭によって様々な具材が加えられます。
ケチャップの甘酸っぱさと、具材のシンプルな味付けが特徴で、老若男女問わず親しまれています。
そして、ナポリタンは、日本人の食文化に深く根付いており、多くの人の心に残る味となっています。
家庭料理としても、喫茶店メニューとしても、日本独自のソウルフードとして愛され続けています。
日本発祥のナポリタン
せっかくですから、スパゲッティナポリタンの歴史を調べてみましょう。
発祥は諸説ありますが、一般的には日本で誕生したと言われています。
イタリアのナポリ料理とは全く異なる、日本独自のスパゲッティです。
明治以降、日本に西洋料理が紹介され、スパゲッティもその一つでした。
しかし、当時の日本には本格的なイタリア食材が手に入りにくかったため、手に入りやすい食材でアレンジされた料理が誕生しました。
ケチャップの普及も関係しています。
トマトケチャップは、明治時代に日本に紹介され、手軽な調味料として普及しました。ナポリタンにはこのケチャップがたっぷりとかけられるのが特徴です。
それと進駐軍の影響もあるかもしれませんね。
第二次世界大戦後、日本に駐留したアメリカ軍の兵士が、スパゲッティにケチャップをかけて食べる姿を見て、日本人が独自のスパゲッティ料理を考案したという説もあるようです。
ナポリタンの発祥地
ナポリタンの発祥地はどこでしょう?
いくつか有力な説があるので紹介いたします。
まずは最有力説。
横浜のホテルニューグランドが、日本で初めてナポリタンを提供したという説が有力です。
ホテルの総料理長が、進駐軍の兵士の食べ方を参考に、独自のスパゲッティ料理を考案したと言われています。
そして、その普及に一役も二役も買ったのが全国の喫茶店でしょうね。
戦後、日本の街に喫茶店が増え、ナポリタンは喫茶店の定番メニューとして広まりました。喫茶店ごとに独自のレシピがあり、様々なバリエーションのナポリタンが誕生しました。
ナポリじゃなくてもナポリタン
ナポリタンは、イタリアのナポリのパスタではないにもかかわらず、なぜ「ナポリタン」と呼ばれるのか?
考えてみれば不思議ですよね。
もしかしたら、トマトソースからの連想かもしれません。
ナポリはトマトの名産地であり、トマトソースを使った料理が多いことから、「ナポリ風」という意味で名付けられたと考えられます。
あるいは、フランス料理の呼び方の影響もあるかもしれません。
どういうことかというと、フランス料理では、トマトソースを使った料理を「ナポリ風」と呼ぶことがあったため、その影響を受けたという説もあります。
愛され続けるナポリタン
スパゲッティナポリタンは、日本の食文化の中で独自に発展した料理です。ケチャップを使ったシンプルな味付けと、懐かしさを感じる味わいが特徴で、多くの人々に愛されています。
ナポリタンの魅力は、単に味覚的な満足感だけにとどまらず、様々な心理的な要因が複雑に絡み合っていると言えるでしょう。
人それぞれ、ナポリタンに対する感じ方は異なりますが、共通して言えるのは、ナポリタンが単なる食べ物ではなく、人々の心に様々な感情を呼び起こす、特別な存在であるということです。
ラーメンとともに、海外発祥にもかかわらず、日本で独自のアレンジが施され、日本独自の料理となっているところが興味深いですね。