医学知識よりも目先の受験が大事?
「大学は医学部を目指していますが、医学的知識は皆無です。それでも自分は医師を目指したいと考えています。本当は医学的知識も高校の段階で知っておくべきなのでしょうが、現在、目の前にあるこなさなければならない勉強量が多すぎて、なかなか医学的知識を覚える時間的余裕がありません。医学的な用語や知識は、大学にはいってから一生懸命学ぶとして、今現在は、英語、数学、化学、生物などの受験勉強に使う教科に専念すべきだと考えていますが、この考えは間違っていますか?」
よくこのような質問を生徒からいただきます。
たしかに、将来医師を目指すのであれば、高校生の段階で医学的な知識を持っていることが望ましいです。それは考えてみれば当然のことで、将来サッカー選手を目指している子どもがいたとしたら、目先の体力トレーニングも大事ですが、サッカーチームや選手の名前くらいは自然に覚えているはずだからです。将来の自分が就こうとしている職業への興味や憧れはあって当然ですし、自然に興味のある分野にアンテナを張るようになるのが普通の流れだとは思います。
しかし、高校生の段階で医学的知識を学ぶことは、当然ながら必須ではありません。医学的な知識や用語に関しては、大学で学ぶことができるからです。目の前のこなすべき受験勉強にウェイトを置こうとする考えは間違いではありませんし、優先順位としては正しいものでしょう。
しかし時間があれば
しかし、大学の医学部に入った後に学ぶべき内容は非常に多く、非常に専門的な分野です。そのため、今の段階から、少しずつでも良いので、医学的知識を仕入れておくことは損ではありません。
もちろん本腰を入れて本格的に学ぼうという意気込みは不要です。むしろ軽い気分で、それこそ勉強の合間に気分転換がてら少しずつ医学の専門知識が易しく記されている解説本を読むことは非常に有効なことです。
もちろん、易しい解説本でよいのです。
本格的な勉強は大学入学後にすれば良いのですから。
しかし、医学部は留年しなければ6年間、さらに卒業後は何十年もの間「職業」として携わる世界です。この世界について、なにも予備知識がない状態で仮に大学に合格したとします。大学にはいって初めて医療の勉強をする。人によってはもしかしたら「自分が思い描いていた世界と違う」と感じる人も出てくるかもしれません。しかし、苦労して医学部の大学に入学してしまった以上、今さら後には引けない。違和感を抱えたまま、この先の人生ずっと医学の世界と付き合っていかなければならない。どうしよう? そうなる可能性もないわけではありません。
ですので、「転ばぬ先の杖」として、大学に入学する前に、あらかじめ、医療関係の用語や医療業界のちょっとした知識をリサーチし、本当に今後の人生で自分が歩むにふさわしい世界なのかどうかを判断することは決して無駄なことではありません。
たとえば、サッカー選手になりたい子どもは、人から調べろと言われなくても、自らサッカーについての情報をたくさん集めますよね? 選手名、チーム名、技の名前や、メモリアルな試合、練習方法、使用しているグッズのブランド名など。
まさかプロのサッカー選手になってから、サッカーにまつわる様々なことを「1から勉強します!」という人はいないはずです。
それと同じで、将来医師を目指す人は、自然と将来自分が携わる世界のことを少しでも知っておきたいという欲求は自然に芽生えるのが普通だと思うのですが(親から医者になれといわれたから渋々医学部を目指して勉強している受験生は別ですが……)。
動機付けが大切!
そのようなことを生徒に話すと、中にはこのような質問がかえってくることがあります。
「親が医者で、将来は医師になれと言われています。自分も出来ればそうなりたいと思っているので、大学受験合格に向けて一生懸命勉強しているのですが、現在の自分は医療関係の知識は皆無です。そんな自分でも現在勉強以外に医学の勉強をすべきでしょうか?」
もし、その生徒が高校3年生や浪人生ではなく、高校1年生や高校2年生であれば、気分転換も兼ねて、そして今後のモチベーションの原動力となる経験作りのために、以下ようなアドバイスをすることがあります。
高校生である今は当然国家資格を持っていないので医療行為に携わることは無理だけれども、医学に関する実践的な知識や技術を身につけるために、医療施設でのボランティア活動や病院見学、医療系のサマーキャンプなどに参加することは貴重な体験になるし、学びになる、と。
このような経験を通じて、医療現場の実際の様子や医療従事者の役割を学ぶことができる、とアドバイスをしています。
また、もし相手の生徒が高校3年生や高卒生(浪人生)であるならば、ボランティアやキャンプは無理かもしれませんが、勉強の気分転換に、医療関係のウェブサイトをネットサーフィンしたり、医学関係の動画を見たりするといいよ、と。
このことがきっかけとなり、化学や生物などの科目をしっかりと勉強しようというモチベーションも上がることでしょう。
仲には、このことがキッカケとなり、中学校で習った内容を復習することから始め、基礎的な部分から着実に復習しなおして、大手予備校の模試で全国ベスト10入りをした生徒もいるほどです。
やはり、動機付けというのは、とても重要ですし、受験を目的にせず、医学部受験はあくまで人生の序章段階、むしろ人生の本番は医師デビューをした後であり、今はその準備段階であると割り切れるようになれれば、目先の勉強の苦労も苦労とは思わないようになると思います。